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でたでた月が 月の話その2

 こどもの日に近いある日、ふうちゃんは学校がひけると、すぐにおかあさんのお手伝いで柏餅を作っています。
「おかあさん、なぜ五月五日は柏餅を食べるの?」
ふうちゃんはおかあさんが作った餅に柏の葉を巻きながら聞きました。
「おかあさんも良く知らないのよ。いわれでは、柏の木の葉っぱはね、葉の根元に新しい芽がでてから落ちるの。まるで若い芽が育っていくのを願うように。
それとお餅をよく見て。けっして中のあんこを完全につつんでいないでしょ。あんこを平べったいお餅ではさむようにつつんでいて、中身のあんこが見えるでしょ。それが子供の手のように見えるからこどもの日に食べるようになったのじゃないかしら」
おかあさんはできあがった柏餅をお皿やお重に詰めながら話します。
「それとね、昔戦争があったでしょ。その戦争の前は端午の節句って言っていたのよ。それまでは男の子が健康にたくましく育つようにお祝いしていたそうなの。戦後はこどもの日になって男の子、女の子、両方のお祝いの日になったのよ」
ふうちゃんはおかあさんの話を聞きながら柏餅を見つめています。
「さあ、できたわ。ふうちゃん、こちらのお皿の柏餅をおとうさんの所にお供えしてちょうだい。こちらのお重に入っている柏餅はおじさんの所へ持っていってちょうだい」
「はーい」
ふうちゃんはお皿の柏餅を仏壇の前に置き、置いてあるおとうさんの写真をしばらく眺めていました。その後、
「おじさんの所へ行ってきます!」
と元気良く出かけていきました。

 コペルおじさんの家に着くとふうちゃんは玄関から入らずお庭の方へ回っていきました。コペルおじさんは縁側に腰掛け、たばこをふかしています。
ふうちゃんがお庭に入ってくると、にこにこしながら迎えてくれました。
「いらっしゃい、ふうちゃん。おや、その手にしているのは柏餅じゃないかい」
「こんばんは! おじさん。これ、おかあさんがおじさんにって。僕、まだ食べていないんだよ!」
「ははは、じゃ、早速いただこうか。ふうちゃん、まっていたまえ」
コペルおじさんはお茶の準備をするために奥へ入っていきました。おじさんの座っていた所に本が置いてあります。
「夜空には88の星座がある、かぁ。星座ってまだそんなに知らないな」
ぱらぱらと本をめくって写真を見ているとなんだかとっても面白そうです。コペルおじさんがお茶の用意をして戻ってきました。
「おや、ふうちゃん星座に興味あるのかい?」
「うん、まだそんなに習っていないけど、夜空を眺めたり神話を読んだりするのは好きなんだ」
ふうちゃんとコペルおじさんはしばらく星座や星の話をしていましたがおかあさんが作ってくれた柏餅を食べはじめると、柏餅の柏の葉は一緒に食べるものか、はがすのか、そちらの話でもりあがってしまいました。

「さてふうちゃん、この間の宿題はできたかい?」
コペルおじさんが聞いてきました。おじさんは、なぜ出始めの月は大きくて時間がたって月が上にあがるにつれて小さくなり、また沈む頃に大きくなるかということの説明をふうちゃんの宿題にしていました。
「うん、色々考えたんだけどわからないや。空気が関係するのかなとも思ったけどね」
「そうだと思ってちょっと実験の準備がしてあるんだよ」

 コペルおじさんの家から川の土手沿いに十分ぐらい歩くとおじさんが通っている大学の研究室があります。ふうちゃんとおじさんは話しながら歩いて研究室に向かっています。
「ふうちゃん、ちょっと後ろを向いてごらん」
ふうちゃんが後ろを振り向くとまだ暮れきらぬ空に朱色をした月が屋根の上にぼーっとでています。
「やあ、とっても大きな月だなぁ。でも、空の上の方に出ている時の月は銀色に光っていてもっと小さく見えるよ」
「ふうちゃん、月や太陽の出始めはみんな大きく見えるけど、きみはなんの疑問もなかったのかい?」
そう言われてふうちゃんは困ってしまいました。
「うん、近くになるから大きく見える訳じゃないよね。月も太陽も地球といつも同じ距離だしね」
「それじゃね、このあいだの実験で使ったこの筒で、もう一度月をのぞいてごらん」
コペルおじさんは長さ50cm、のぞく方が3cm、先が3mmに丸めた漏斗状の紙の筒をふうちゃんに渡しました。
「あれ、コペルおじさん。ぴったし入っちゃったよ! 不思議だなぁ。なんでこの筒でのぞくと月が一ぺんに小さくなっちゃうんだろう」
ふうちゃんがのぞいた筒から見える月は前の実験の時と同じ大きさの月でした。ただ色だけが朱色におぼろになっています。
「これが本当の月の大きさなんだよ。出始めの月も、空の上の方に出ている時の月もみんな50cmのところで測れば同じ大きさなんだよ。だからそのつど月を写真に撮っても同じ大きさで写るんだよ」
「ほんとう? あんなに大きいのに。ちょうどバスケットボールとソフトボールぐらいも違うじゃないの!」
ふうちゃんは目の前に出ている月を見ながら話します。信じられないようでした。
「空の上の方に出ている月はね、まわりがあんまり広くて何もないから小さく見える。でも、出始めの月は建物の屋根とか森だとか、色々な物が近くにあるものだから、なにもない空にあるときより大きく感じられるのだよ。目にうつっている月の大きさは少しもちがわないのだよ。
でもね、それだけじゃなくて、もっと大きなわけがあるのだよ。それをこれから実験してみようと思っているのだよ」

 コペルおじさんはそう言うと研究所の駐車場に入っていきました。ふうちゃんはそのあとについていきます。コペルおじさんは研究所の建物の中に入らず、横にある非常階段を上り始めました。
「ふうちゃん、この研究所の屋上に実験の準備がしてあるのだよ」
ふうちゃんは初めてコペルおじさんの研究所に来ました。建物の中からは「ブーン」というような音や、コンピューターのキーをたたくような「カチャカチャ」という音が聞こえてきます。

 屋上はとても広く、はじの方には何かの観測用の機械が置いてあります。一番左端に風船がつないであります。そこまでふうちゃんとコペルおじさんはやってきました。
「コペルおじさん、風船が浮かんでいるね」
「ふうちゃん、これが今からやる実験なんだよ。ちょうどふうちゃんの目の高さにこの風船が浮かんでいるよね。そのまま右端まで一緒に歩いていこう」
ふうちゃんとコペルおじさんは約30m離れた右端まできました。ふと、空を見上げるとだいぶ上の方に風船が浮かんでいます。
「さあ、ふうちゃん。空に浮かんでいる風船の真下にきて。そう。じゃ、空に浮かんでいる風船をよく見ていてね。それから左端に浮かんでいる風船を交互に見てどちらが大きく見えるかな」
ふうちゃんは何度も上を向いたり向こう側の風船を見たりしていました。
「うーん、向こうの左端の風船がずっと大きく見えるよ」
「そうだろう。じゃ、今度はこの真上に浮かんでいる風船の糸をたぐって引き下げるから、君はたえず両方の風船を見てちょうど同じ大きさになったときに合図をするんだよ。さあ、はじめるよ」
コペルおじさんはふうちゃんの後ろに立って糸をたぐり寄せ始めました。
「どうだい。まだ同じ大きさにならないかい?」
「うん、もうすこし」
「まだかい?」
「よし、ここでいいです。ちょうど同じぐらいに見えるよ」
それを聞くとコペルおじさんはたぐった糸のちょうどふうちゃんの目の位置に目印の赤いリボンを結びました。
「それじゃ、ふうちゃん。今度はここの赤いリボンの印の所を目の位置にあわせて持っていて」
コペルおじさんはふうちゃんにリボンの印の所の糸を持たせると、そこからその糸を持ってたぐりながら左端の風船の方へ歩いていきました。
ふうちゃんが持っている糸とコペルおじさんが持っていた糸がピンとなった所でコペルおじさんは止まりました。おじさんの手には空高くに浮かんでいた風船がたぐり寄せられています。
「さあ、ふうちゃん。今度はどちらが大きく見える?」
コペルおじさんが大声でたずねました。
「あれ、へんなの。今度はコペルおじさんが持っている風船がずっと大きく見えるよ」
「いいかい。この風船は空に浮かんでいた時もこうして横にひっぱっている時も同じ距離だよね。その同じ距離の物が空に浮かんでいるときは同じ大きさで、横にひっぱってみると今度は向こうの風船よりずっと大きく見える。そうだろう」
「うん。不思議だなぁ」
「今度はリボンから手を離して、結んである場所からふうちゃんの目の位置にくる所で糸をピンと張って持っていてごらん」
糸がたるんだ分、コペルおじさんは向こうの風船の方へ歩き出しました。そして糸がピンと張ったとき、向こう側に浮かんでいる風船と同じ場所にコペルおじさんが持っている風船がきました。じつは空に浮かんでいた風船の糸の距離と二つの風船の距離は同じだったのです。
「あれ!」
ふうちゃんは思わず声がでました。
「これでわかったかい。空に浮かんでいた風船の糸の距離と二つの風船のあいだの距離は同じなんだよ。そらに浮かんでいた風船がずっと小さく見えたので糸をたぐって同じ大きさに見えるまで下げたよね。さあ、この二つの風船は今はどちらが大きく見える?」
「同じです。ちっともちがわないよ!」
「ははは、わかったかい」
コペルおじさんはにこにこしながらふうちゃんの所へ戻ってきました。
「月もちょうどこれと同じなんだ。横に出始めのときは大きく見えて、空の上の方にのぼると小さく見える。月は風船とくらべようもないぐらい遠くにあるので大きく見えたり小さく見えたりする度合いも大きいのだよ」
「なんだかとっても不思議だね。でも、どうして大きさが違って見えてしまうのかしら?」
「うん、良い質問だね。だがね、それは僕にも解らないのだよ。この質問に答えられる人はまだいないのだよ。こういう事を研究するのは心理学といった学問なのだけど、その学者にもこれだという答えがでていないんだ。ふうちゃんは不思議に思うだろうね。こんななんでもないような事が学者にも解らないなんて。でもね、この世の中にはわかっている事よりも、わかっていない事のほうがはるかに多いんだよ。ふうちゃんも大きくなったらそういった不思議な事の一つでもいいからわからせるように、一生懸命やってみるんだね」

 そういってコペルおじさんはたばこに火をつけて夜空を見上げました。ふうちゃんも不思議な月を見上げました。

  月のおはなし おわり

 参考図書 知恵の一太郎 江戸川乱歩著 

 次回からは完全オリジナルでがんばります。      風来坊

 
 

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